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アメリカM&Aの流れと手続き|投資ビザ・E2ビザ申請にも役立つ基礎知識

    前回の記事ではアメリカ投資やE2ビザ取得を目的としたM&Aを検討する投資家の方にも役立つ、M&Aアドバイザーの役割と、アメリカにおける案件サイズ別のM&Aアドバイザーの違いについてご説明しました。

    加えて、M&Aではそれぞれの分野についての専門知識が必要であり、会計士・税理士・弁護士など様々な専門家が関係者としてディールに関与します。

    では実際のM&Aのプロセスとはいったいどのような流れになっているのでしょうか。今回は一般的なM&Aプロセスのと必要となるタスクについてご紹介します。

    M&Aの一般的なプロセス(買手の目線から)

    Step1: 事前準備 

    M&Aにおいて最も重要であるものの忘れてしまいやすいのが、買収によって何を成し遂げたいかという背景と目的の確認です。

    プロセスが進むにつれて本来の目的を見失ってしまい、買収することがゴールになってしまっている会社も多く散見されます。M&Aとは会社を成長させる為の戦略の一つとしてのツールであり、アメリカ市場への投資やE2ビザによる事業移住の際にも有効な手段ですが、M&A自体が目的ではないということを常に重視しておくことが肝要です。

    業界・市場を分析したのち、企業成長の目的がM&Aによって達成できると判断された場合にはじめてM&Aを検討することになります。

    事前準備では買収したい会社の地域や規模などに応じて、スキームや資金調達の目途を初期的に検討したうえで買収対象会社の選定に当たります。

    Step 2: 買収候補の探索

     アメリカ投資を目的としたM&Aの場合、買収対象会社には大きく2つのパターンがあります。

    1. 現在売却検討中の会社
    2. 売却意図が不明である会社

    一般的に売却を検討していない会社に直接アプローチをかけて売却をお願いするといった手法は非常に困難を極めるため、既に売却を検討しており、M&Aアドバイザーが売却案件としてマーケティング活動を行っている会社にターゲットを定めることになります。つまり、会社にとっては売却のマーケティングが来たのでM&Aを検討するといったパターンも存在するわけです。

    このような場合は、前述の事前準備の通り、対象会社の買収が本当に企業の成長に即したものであるかどうか慎重に見極める必要があります。売手アドバイザーからマーケティングを受ける際は、会社の魅力・簡易的な財務情報・事業の要約などが記載されたTeaserという資料を受領します。Teaserの内容を確認して更に興味を持った場合はNDA (“Non-Disclosure Agreement”) 秘密保持契約書にサインしてより詳細な情報を入手します。

    NDA締結後に売手アドバイザーからはCIM (“Confidential Information Memorandum”)という資料を共有されます。CIMにはTeaserよりも詳細な事業の内容・経営陣の情報・財務情報など案件を検討する際に必要な情報が追加で開示されます。

    時には経営陣にQ&Aを含むインタビュー(マネジメントプレゼンテーション)を行ったり、実際の会社や工場などに赴く(サイトビジット)を行い、より詳細なイメージを掴むことができるケースもあります。

    追加で得られた情報を精査した後、更にプロセスを先に進めたい場合は意向表明書IOI (“Indication of Interest”) あるいはLOI (“Letter of Intent”)を売手に提出します。買手が複数存在する場合はオークション取引と呼ばれ、一対一で取引が行われる場合は相対取引と呼称されます。

    Step 3: 買収監査および入札

     意向表明書が受理され、次のプロセスのに進むことができた場合はデューデリジェンスといった買収監査を行います。

    デューデリジェンスの目的としてはCIMやマネジメントインタビューで解明できなかった情報について追加で資料開示などを依頼して、買収検討に必要な情報をより詳細に調査することにあります。前回の記事でご紹介した、会計士・税理士・弁護士などを起用して、買収における懸念点の洗い出し、リスクの分類、価格交渉の材料など様々な観点から調査を行います。

    案件の性質によっては不動産価値評価・IT・人事デューデリジェンスなどを実施するケースも散見されます。デューデリジェンスを通じて発見された事項は買収価格に反映されたり、契約の条件として織り込まれたりとその取扱いは様々です。特にアメリカ進出を目的とした投資案件やE2ビザ取得を伴うM&Aでは、法務・税務・雇用契約など、追加で確認すべき項目が多くなります。

    デューデリジェンス後も買収の意向は変わらないという判断であれば最終意向表明書を提出して、契約条件の交渉に臨みます。

    Step 4: 最終契約交渉

    最終契約前の交渉においては取引価格に加えて、マネジメントや従業員の処遇、案件実行の条件など検討事項は多岐に渡ります。

    一般的に株式譲渡契約書や資産譲渡契約書は売手弁護士がドラフトしたものを買手側に共有し、買手側で条件を応諾したり、カウンター案として別条件を提示するなど双方が納得できるまで条件の交渉が続きます。本局面でも必要に応じて会計士および税理士の協力を仰いで交渉を進めるといったケースも多く散見されます。

    交渉の結果、双方で条件の折り合いがついた場合はサイニング(署名)を行い、案件のクロージング手続きに進みます。

    Step 5: クロージング手続き

     契約書に双方の署名がされた後はクロージングに向かって双方で必要なタスクをこなしていくことになります。特に案件実行の前提条件の確認は重要となっており、条件をクリアできない場合はクロージングできなくなってしまうため、しっかりと前提条件をクリアできるように努力することが必要です。

    案件によっては当局対応や許認可などに関連する手続きが必要になるケースも存在します。しっかりと条件がクリアになった後は決済や株式または資産の譲渡が行われ、晴れて取引が完了するといった流れとなります。

    アメリカへの移住やE2ビザ申請を視野に入れた投資M&Aの場合、クロージング後のビザ手続きや現地法人の運営体制の整備も重要なステップです。

    まとめ

    一般的なM&Aプロセス(案件組成~クロージング)の所要期間は6ヶ月程度と言われていますが、案件の性質や開始時期(休暇時期)などによっては1年近くを要するケースも存在します。アメリカ投資やE2ビザ取得を目的としたM&Aの場合は、通常の国内案件よりもビザ審査や現地法人設立の準備に時間を要するケースもあります。

    加えて、M&Aのプロセスでは本業プラスアルファのコミットが求められるため、本業の繁忙期なども鑑みて買収・売却の計画を策定することは非常に重要です。一連のプロセスとそれらに付随するタスクをしっかりと把握しておくことでM&Aの実施も一定程度スムーズに進められるようになるかのではないでしょうか。

    Business MAでは効果的なスケジュール・適切なプロセスの選定・進捗管理などディールを円滑に進める為の包括的なマネジメントについて助言サービスを提供いたしております。